オレガオモウコト

俺の愛している人は、結婚しています。

彼女の髪を切る

「前髪、どれぐらい切る?」

「んー。佐藤さんに任せる。」

「了解。」

 

俺は、時々彼女の髪を切る。

 

クロスに包まれた彼女は、借りてきた猫のように大人しい。

別に、普段暴れん坊という訳では無いが。

 

「後ろは?」

「毛先が少し傷んでるから・・・3cmぐらい?」

「そんなに傷んでないよ。」

「そう?でも、ちょっとスッキリしたいな。」

「じゃあ、5cmぐらいカットしてみる?」

「えー。」

「じゃあ、4cm。」

「うん。」

微妙に細かいリクエストに、思わず笑みが零れる。

 

「今日、いいお天気だねー。」

「そうだな。」

「おうちに居るの、もったいないね。」

「そうだな。」

「どっか行きたいなー。」

「そうだな。」

 

手鏡越しに、彼女の視線が突き刺さる。

 

「佐藤さん、そうだなーばっかり!」

「そうだな。」

「もーーー。」

「動いちゃだめ。ザックリいくよ。」

彼女の動きがピタッと止まった。

 

「はい。終わり。」

「ありがとう。」

「直しは?」

「ううん。このままがいい。」

俺は、下に流れ落ちた髪の毛を片付ける。

かなり適当に。

 

「さ、行くぞ。」

「どこに?」

「どっか。」

「どっか??」

「さっき言ってただろ。どっか行きたいって。」

 

彼女の眩しい笑顔が、俺の目に映る。

揺れ動く真っ直ぐな髪と共に。