オレガオモウコト

俺の愛している人は、結婚しています。

思い出

 俺の家の近所に、中学生の頃によく行っていた古い喫茶店がある。

外装も内装も昔のままで、とてもカフェとは呼べないような雰囲気の店なのに、何故か彼女は行きたがっていた。

 

「もっとオシャレな店にすればいいのに。」

「いーの。佐藤さんの思い出に触れてみたいの。」

 

別に、これと言って珍しくも何ともない店だけど、彼女のリクエストだから仕方がない。

俺は、その店の駐車場に車を入れた。

 

 

「いらっしゃいませ。」

 

マスターが、昔と変わらない笑顔で出迎えてくれた。

何となくニヤついて見えたのは、俺の気のせいだろうか。

 

「ホットとアイスカフェオレ。」

 

俺は、挙動不審で注文どころではない彼女の分も注文した。

 

キョロキョロと店内を見渡し、少し興奮気味の彼女。

 

「なんか、なんか、すごい!」

「何が?」

「だって、佐藤さん、中学生の頃にここにいたんでしょ?」

「そうだよ。」

「こんな大人っぽい雰囲気のお店に来てたなんて、なんかすごーい。」

「この辺の連中は、学校が終わったらここで集まるのが普通だったんだよ。」

「ふーん。まさか、その頃からタバコ吸ってたんじゃ・・・?」

「この辺の中学生は、それが普通だったからね。」

「えーーー。不良不良!」

「俺は真面目だったよ。」

「え。でも、タバコ・・・。」

「吸ってたよ。」

 

「真面目な中学生は、タバコなんて吸いません!」

 

本当に真面目だったのに。

 

グラスの中の氷をストローで回しながら、彼女は深い息を一つ吐いた。

 

「連れてきてくれて、ありがとう。

佐藤さんの思い出の場所に来れて、すごく嬉しい。」

 

こんな事で喜ぶ彼女を、俺は愛おしく思った。

 

「じゃあ、今度は俺を結美の思い出の場所に案内して。」

「いいけど、いっぱいあるよ?」

「構わないよ。全部、一緒に行こう。」

「うん!」

 

俺は、彼女が行きたい場所を知っている。

以前、車でその近くを通った時、彼女が切なそうに見ていた場所がある。

 

「もう一度、歩いてみたいなぁ。」

 

彼女は、通っていた小学校の前でそう呟いていた。

その近くには彼女が住んでいた住宅や商業施設があり、彼女にとっては思い出深い場所のようだった。

 

いつか、連れて行ってやりたい。

 

その時、彼女の表情を見て俺はそう思った。

 

今度、二人で手を繋いで歩こうな。

君の思い出が溢れる町を。