オレガオモウコト

俺の愛している人は、結婚しています。

小さな命が消えた日

 

内診の後、大量の出血が彼女を襲った。

彼女は立っている事が出来なくなり、急いで処置室へと運ばれた。

 

彼女の体の中で大変な事が起きているのに、俺には何もする事が出来ない。

俺と彼女の子供なのに・・・。

そんな苛立ちを拳の中に秘め、俺は待っている間ずっとそれを握り潰していた。

 

 彼女のお腹の中の赤ん坊は、内診と超音波診断でも確認が出来ないほど小さな存在だった。

医師は、血液検査でも反応が出ないほど初期の段階だったと言った。

お腹と腰の痛みがあった事から、着床異常による極めて初期の流産だと。

 

俺は処置室のベッドで横になっている彼女の手を握り、彼女の心と体が落ち着くのを待った。

女性にとって、こんなに辛い事は無い。

たとえ、産む事は出来ないと決めていたとしても、彼女が悩んで苦しんで出した結論の筈だ。

その彼女の気持ちを考えると、俺は胸が張り裂けそうだった。

 

彼女の容態が落ち着いたのを見計らって、俺たちはゆっくりと車に戻った。

俺は助手席のシートを倒し、彼女を静かに寝かせた。

そして、時間が許す限り二人で過ごした。

 

俺は、彼女の体ももちろん心配だったが、彼女の気持ち、彼女の心を少しでも癒してあげたかった。

無力な俺に出来る事は、それしか無かった。 

 

 彼女は、横になったままゆっくりと話し始めた。

 

「赤ちゃん、一人で天国へ行っちゃったね。

 私が産んであげられないって困ってるのがわかって、自分から逝っちゃった・・・。

 せっかくお腹の中に来てくれたのに、私が産めないって決めたのがわかって、自分から・・・。」

 

俺は、彼女が自分を責める事がわかっていた。

彼女は、そういう女性だ。

 

涙を流す彼女を、俺はそっと上から抱きしめた。

お腹に負担が掛からないように、そっと。

 

「辛い思いをさせて、ごめんな。

 俺のせいで、辛い思いをさせて、本当にごめん・・・。」

 

俺には謝る事しか出来なかった。

そして、大事な彼女の心と体を傷付けた事を心から後悔した。

 

そんな俺を、彼女は一言も責めなかった。

でも、彼女の頬をつたう涙は止まらなかった。